「 雨の日 」


にわか雨を逃れて 地下街に入ると

通りを急ぐ人の流れに出逢いました

今日はどの店も傘を並べています

まるで空行きの切符を配っているようでした





「Miss you」


やっとの想いで差し出した手を 

子どもをあしらう様に振り解かれた 

そんな恋の終わり





「泣いたピアノ」


慣れない手つきで
あなたはEとFの間で迷っている

たった半音
きっとそれくらい

いつの間にか打ち消しあって不協和音
一緒の時だけ生まれる響きが
今日はなぜだか鳴らなくて

それでもあなたは
白い二つの鍵盤を 試すように押えてみては
近づかない半音の隙間を 何度も何度も埋めようとしていた


ピアノが泣いた…





「お帰りなさい」


何度も行き違い
分かり合うことの難しさに泣いてきた母が
父の運転する車の後ろで揺られながら
小さくなった婆ちゃんを全身でしっかり抱いている

そして母は
長かったお出かけからようやく解くように

「家へ帰ろうね」

そう言った


婆ちゃんお帰りなさい





「一番奥の引き出し」


たとえばそれはすれ違いで 
きっと知られることもなく 
私の思いは あなたの横を通り過ぎました

分かっています 私がついていないだけなのだと

ふるい恋は いくつか年を数えたけど
包んでくれたていたはずの想いが
音も立てず静かに姿を変えていたのです

いくらあがいてみても手の届かぬことを知り
失くしてしまったものの大きさに気づいた頃

拗ねる子どものように無様な姿をした
愚かな私がそこにいたのです

出逢いを始まりと言ったのなら
それは一度絶たれたはずの遠い想い
まるでたどり着けるはずも無い遠い道のほんの入り口

泣き虫の私は大切な宝物を仕舞うように
いつか独りでいられるくらい大人になる日まで
叶わぬ恋が支えてくれることを祈るのです

ただ遠くから ただ遠くから
いつも幸せでいてください そう祈るのです





「 理 由 」


また誰かと比べるから 自分で自分を窮屈にしていたり
人にどう思われるか そんなことばかり気にして息苦しくなっている

周りの人を気づかったはずが
期待に応えられるほど器用じゃなくて
かえって心配掛けてしまったり

ふと足を止めてみたら
一生懸命別の方向に歩いている自分に驚いて
今では目指していたものさえ分からなくて
またため息をつく

やっぱり自分らしく生きることって難しい

いつか全ての迷いから醒めて
こんなやり方しか出来ない自分を
嫌わず愛せるようになれるだろうか






「 東 京 」


行き交う人とぶつかりながら
わたしは今日も急ぎ足で改札に向かう

わたしが転んでも
きっと何事も無かったみたいに
誰も振り返ることもなく歩いていく

そんな場所に立っていると
時々自分を失くしそうになる

わたしは人ごみに埋もれて溺れる魚

電車のドアに押されて
汚れた窓からホームの向こうを眺めていた

偶然自分とよく似た人と目が合い
また心の中で「お疲れ様…」と言う

鮮やか過ぎる光彩は
わたしにはとても眩し過ぎて
落ち着ける場所を探しても
淋しくてまた同じ道を行ったり来たり

こんな街にも星の来る夜がある





「 誓い 」


僕が今 神様の前で誓ったのは
愛し続けるとか 離れないなんて
そんなことじゃなくて

これからもずっと
君と分け合っていくことと
いつも一緒だと知っているということ

大切なのは形じゃなくて
どんな小さなことにも幸せを思い出したり
生まれたり失くなったりしない
いつも在り続けるものだと信じること

だって僕ら
とっくの昔に約束してたことなんだもの






惜しむようにゆっくりと滑走路へ流れてゆく終刻の飛行機

楽しかった記憶をかき消すように
淋しさが余計胸を締めつけるアナウンス

ガラス越しに一心に手を振る母と無言で空を見つめる父

出来ることなら引き止めたいのに
すぐそこにいるはずの人に なぜこの手は届かないのだろう

そんなことも知らず 真っ白なシルエットは瞬く間に空へ
故郷の空港は雪に覆われ見えなくなる

愛する人のしあわせ見送るクリスマス

離れるほど想う心は強くなる

(2005.冬)




風にゆれる白いブラウス 交差点に翔けだした帽子
それに導かれたような二人

危うく迷子になりそうな人込みの中 なぜかしら見つけだしたお互い
ずっと前から知っていたかのような記憶

そんな不思議さえ忘れてしまうほど 今では何にも代えられない存在
それが怖いくらい当たり前の毎日

窓際の向こうに若い家族を見つけては 微笑んであんなふうになれたらと
珈琲を待つ間ただ見とれていた風景
独りで味わうのは味氣なくちょっと残念

約束の時刻を5分過ぎて
向いの席に君が来る待ち合わせの店

(1999.秋)
 

 
  
粉雪の風景を見つめながら
窓の向こうに 夏の蒼い草原を思い出していた
  
春の歓びも 秋の切なさも今では深い雪に被われ
まるで眠っているかのように静かに音もなく降り積もる
  
何を探して歩いて来たのだろう
伝えられなかった たくさんのありがとう
言葉にならなかった ごめんねの想い
  
せめて大切な人が笑顔であるように そう願いながら 
一生懸命雪の坂道昇ればなぜだか心も暖かく
  
真っ白な雪原に花が一輪咲いたような氣がして
また次の季節を歩いてゆこうと思う
 
(2003.冬)

 


 

夜明けを待って 丘の上まで駆けあがる自転車

雪解けの雫を運ぶ川静かに鉄橋を渡ってゆく長い貨物列車
街は今日も目覚めの朝を迎える

いつか補助輪を外せたあの日
もう一度頑張ろうと励ましながら ずっと傍らで見守ってくれた人

私にとっては小さくも大きな一歩だったけれど
兄にとってはたくさんの役割の一つが

終わった瞬間だったのかもしれない

それでも心のリレーはずっと続いていく
今度は私が誰かの支えになる番

それが私のありがとう
 
(2003.春)

 

 

麦わらの向こうに午後の陽射しをよけながら
ゆっくり夏の庭を散歩する

ラベンダー畑が風に揺れ
風鈴を揺らす優しい手ざわりで 木陰から涼しさを運んできた

ホースの先に虹が架かると
五線の上を楽しげに遊ぶ音符のように 水のループの合間で踊るチョウたち

夕方になって西の空からにわか雨
私の心のバケツは小さくて また受け止められず つい零してしまう
いつも誰かに押しつけてしまう

できることなら一人でも多く 叶うなら一粒でもたくさん 誰かの心の雫をすくい採れたら

雨上がりの夕暮れ

今宵はどんなお月様
 
(2002.夏)

 
 

 

祝祭の日 広場には人々が集い 互いに聖夜の訪れを喜びあう

叶ったもの 届かず過ぎ去ったもの

それぞれに感謝と希望の祈りを捧げながら


疲れて歩けなくなったキツネ

再び雪原を走り出した時
その勇ましい尻尾に蹴立てられた粉雪が宙に舞い
美しいオーロラになったという北欧の伝説

名もなき木像の教会に
子どもたちの澄んだ歌声が響くポーラーナイト
空から幸せのひかりが降り注ぐ

Merry Christmas
and Happy New Year to you.
 
(2002.冬)

 

 

たくさんの思い出を共にした同級生たちに見送られ
いつかまた逢うと約束した夕方の駅

どれ程の夢を詰め込んだ鞄 押し戻されそうな少しの勇気

座席に深く身体を沈め 窓から遠く故郷を眺めると
愛しい歳月を過ごした小さな街は
あっという間に見えなくなった

切ない心を抑えながら
歩き出さなければならない時がある

明日の行方も知らず
ただ懸命に生きた青く儚い季節

柔らかく穏やかな四月

今はもう誰もいなくなった場所で
僕は幼い日の記憶を伝える
新しい家族を迎えていた
 
(2002.春)

   

次の角を曲がり 子犬が通り過ぎるのを待って
急ぎ足で冬の歩道を渡って行ったら

偶然ボールを追いかけてきた少年

ゴメンとだけ言って振り帰る
 
もしもあの時…

目の前に置かれたいくつかの別れみち

逃れようもなく導かれて行った心

その時そこに訪れるために用意されていた場面
運命はずっと前から描かれていた必然の地図

思い掛けず大切な人を傷付けたり

いつも心に背くことを言って後悔したり

上手には生きられなくてまた空を仰ぐけど

あれはきっと偽りのないささやかな私の昨日
  
誰も知らない次の時

だからこそ過ちや誰のせいではなく
未来はその時その瞬間生まれ変わるもの

私の夢は終わらない
 
(2001.冬)

 

 

あそび疲れ 帰り道をなくした夕暮れ

木の葉を揺らす風は 耳元を掠めるように通り抜け
木立の影は次第に色濃く
静かに君の足元を消し去った

淋しくて落ち葉の上にしゃがみ込み
悲しくて声もなく泣いた林道

失くしたものは何もないのに
明日が見えなくて 押しつぶされそうになる幼い心

いつか空は晴れ渡ると信じて
微かな薄明かりを頼りに また歩き出す小さな靴音

やがて満天の星に囲まれた森で
白いウサギがやさしく微笑んだ満月の夜

不安も幸せもきっと自分の中にある
 
(2002.秋)


どうして私はここにいるんだろう

どこから来てやがてどこへ行くのだろう

生まれた瞬間広がりだした私の世界
永遠の答を求める旅はとうに始まっていた

雲の向うに未来が少しだけ顔をのぞかせ
昨日に負けずまた自分の力で歩き出せば
次の風は必ず吹いて来ると告げた

切なくて泣き明かした夜も いつか必ず小さな実を結ぶ
全てのことには意味があると そう教えてくれた

たどり着く約束の場所は分からないけれど
迷うことは何もないよね

きっと思い出すだけでいいんだよね

だって私が選んできた道なんだから


誰かを羨むより 思い切って葉を広げよう

その時私は紛れもなくその丘に立っている

(2001.春)

吹雪の中で僕は母を探した

町の小さなスキー場 せがんで母と出かけた冬休み

駅から二人だけのバスに乗り
降りしきる雪の停留所に着くと人影は無く
リフトは止まり、休憩所も凍えていた

まだどれほども滑っていない頃
せっかくの母との休日だと知りながら
急に吹雪く無人のゲレンデが淋しくなり
僕は突然帰ろうと言い出した

母はそんな我侭をどう思ったことだろう

家を離れ、一人前になったつもりでつまずいて
震えながらまた歩き出そうとする度、
いつも見えない手に支えられていたことに氣付く

年の分、忘れてしまったことも多いけれど
あの日の記憶は 今も鮮やかに僕の中に在り続ける

ふるさとの街は今日も雪ですか?
 
(2000.冬)



月と太陽が重なりあう偶然のとき
めぐり逢いはまるで千年の待ち合わせ

憧れはただ何もないあなたとの暮らし
ささやかな喜びを分かち合えば
それは掛け代えのない幸せの場所になりました 

不意の別れに もはや涙が涸れ果てても
視界を埋め尽くす夕暮れの鮮やかさに
潤いを忘れた私の心は救われたのです

いつか隣に眠る日が来ても
悲しみを持ち越すことはしないと決めました

自分の過ごした時間を愛したと伝えて
長い旅に出ましょう

ふるさとの風景を胸に
星の夜空を渡って行きましょう

レンズの前で手をつないだ家族の笑顔で

いつかまたあの日に帰りましょう

(2001.秋)




チャペルの鐘に誘われて
真直ぐな道を白のドレスで歩いてくる
今日の彼女はなんてきれい

制服が似合う季節
教室の片隅で出逢った二人は
抱えきれないほどたくさんの夢を話した

たとえいつか叶わない現実に突き当たっても
輝いていた時を忘れないと誓った

夢や幸せの形は皆少しずつ違う

誰一人同じ未来を描くことはなく
本当の自分を見つけ出すのはとても難しい

「自分が本当に氣に入った洋服を 背伸びもせず着られるひとになりたい」
彼女は私にそう教えてくれた

あれから十二年目の夏、
今も二人はあの日の約束でつながっている

(2000.夏)


「はじめまして」
そんな一言から始めてみようよ
それともどんな…

私はまだあなたを知らないし
あなたもまだ
私に出逢ってはいないかもしれないけれど
きっと通り過ぎるだけの二人じゃないから
早く私を見つけて欲しい

季節がまためぐってくるように
人には何度も別れの時が訪れるけど
それは次に出逢うためにあるものだから
そんなに遠くは思わないで

さびしさはどこかにしまって 笑顔でいようね

その時二人は近くにいるはずだから
「さよなら」じゃないね

たぶん「またね」だね…
              
(2000.春)



誰も知らない物語

妖精の存在を信じる国の人たちが
乾いた手を寄せ ランプの灯を大切そうに包む夜

空に焦がれる針葉樹の指先には 彼方の星が瞬いていました 

すくい採った水をかざせば 小さな宇宙がきらめいて
楽しそうに揺れながら きれいな時を奏でています

静寂の中に生まれた湖では
朝もやが風に吹かれて舞い踊り

鏡の向こう側を雲がゆっくり流れては
時の満干さえ忘れてしまうのです

夢の途中で目覚めれば
そこには私の物語が開かれていました
             
(1999.夏)


  
大きく息を吸って
まばゆい四月の空に背伸びしてみる。

やわらかく寄り添う空氣にまるで身体がゆっくりと溶けるよう

何て氣持ちのいい朝…

街の喧騒を離れ 瑞々しい野山や川辺に出かければ
いつのまにか耳を澄ます感覚を思い出す

匂いで森に踏み入れたことに気付くと
いつか見た懐かしい風景が広がっていた。

昨日まで抱えていた重たい荷物。

悔やんで何度も思い悩むより
自然に今を受け止めてみよう

そんな自分を好きでいよう

そしてまた新しい今日を歩いていこう

今年の春は私にもあたたかい。

(1999.春)
 



夕暮れのオレンジ

空一面が赤く染まると
私は幼い日の父の記憶を想い出す

小さい私にとって
夜の闇は計り知れない恐怖だった

普段は何事にも厳しい父
それでもそんな私を見かねた父は、
小さな私の手をとり
力強い歩みで導いてくれた

あの日、私は無心に父の手を握り締め
暗闇をじっと見つめていたという

今も父の温もりが私の胸に満ちている

そして私は
夜が来ても泣かない娘になった
              
(1998.秋)


楽しいこと 嬉しいこと
理由は良くわからないけれど
いつもそこにはあなたが必要で、

面白い話や 美味しい食事も
わたし独りではつまらない

本日のワインを1本
おそろいのグラスを二つ

ケーキにはキャンドルをたて
リボンでくるんだ贈り物は こっそりどこかにしのばせましょう

今年も白い雪の晩に
ふたりで暖かいクリスマス…。
           
(1998.冬)


街が白一色に染まった雪の朝
一面に敷きつめられた真綿の絨毯に
小さな足跡がひとつ またひとつ

どこを探しても 大きなエントツはなかったけれど
僕はそれを絶対サンタの足跡だと信じた

学校ではみんなただ笑うばかりで
誰一人として僕の話を信じてはくれない

枕元に用意した靴下も
空っぽのまま 独り淋しくぶら下がっていた

次の朝も 長く白い道が延びていた

静かに降りつもる雪は 微かに紫色に輝く

何気なくベッドの下を見ると
merry X'mas!と書かれたカードと
あんなに欲しかった野球盤があった

僕のサンタクロースは一日遅れでやってくる

(1999.冬)




彼の名はシロ 我が家の愛犬

十五年前の春、妹「イチ」と共に拾われてきた

頑固な父は家に迎えることを良しとせず
それでもシロはどこ吹く風と駆け回り
毎夜トイレに連れて行けと鳴いては困らせ
父もまたお手上げとばかりに泣かされた

そんな矢先のことだった

母にせがまれ渋々散歩に連れ出した時のこと

横断歩道の向こうで声をかける女の子がいて
喜んで元氣に駆け奇ろうとしたシロは
走って来た車に思い切り体当たり!

全治一ヶ月、名誉の負傷を負ったのだった

怪我の巧妙とは良く言ったもの
責任を感じた父はそれ以降
シロをまるで我が子のように可愛いがった

彼の名はシロ 我が家の家族になった犬

飾り気のないその名は昔 若かった父が付けた名前

(2005.春)



遥か遠く古城の国

城郭に守られた中世の街
静かに人々の営みを見つめて来た大聖堂

石畳の道を抜けてゆくと
古ぼけたアンティークの店が一軒

年老いた主人同様
いつも眠っているかのよう

そんな店にもただ一つ
街の子ども達を楽しませている宝物がある

ガラスの中に飾られた小さな人形
蒼い眼のマリオネット

昔々母から子へ託されたのはどんな願い

何世紀経っても色褪せない
魔法の贈りもの

(2005.夏)




泥ん子になって
一生懸命 幼くおぼつかないその足で

夕方のあぜ道

大きな畑の真ん中で
小さな私がひとり

稲穂を撫でるやわらかな風
愛しい森の寝息が聞こえてくる

もうすぐ紅葉の季節

わずかひと時ばかり
鮮やかな色彩に華やぐ山の頂

ただ自分でいられることが幸せに思えて
涙があふれてくる奇跡の庭

いつか真っ白な雪の下に眠る日が来ても
再び生まれ来る春を夢見て
もう一度力の限り

(2005.秋)







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